まだ夫に愛があるモラハラ被害者の妻にとって、自覚なき加害者のモラハラ夫にとって、そして、その夫婦の子にとって、家庭内モラハラの理想の解決となっているマンガです。
いろんな条件がうまく重なり合わないと、こうはならないな…って思うけど、私も最初に離婚を考えたときの『理想の解決』はこの方向だったんだろうって思いました。
でも、私はそうはならなかったから、二つの意味で泣けちゃった。「こうなりたかったんだな、あのときは」という気持ちと「この夫婦はこうなれてよかったね」という気持ちで。
結局離婚した、そしてその離婚を後悔してない私が読んでも「読んでよかった」と感じ、モラハラに悩む夫婦がこうなってくれたらいいのになと願うマンガです。もうちょっと具体的に感想を書いていくので、ぜひスクロールしてお付き合いください!
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あらすじ
大手商社に勤める高学歴のエリートサラリーマンで、いつも大勢に人に囲まれて、話も面白く、頼りがいがある人。デートも完璧にエスコートしてくれるし、お会計も全部持ってくれる。
ちょっと気になったのは、定員さんに対する態度が横柄だったり、周りの人を攻める発言が多いこと。
「エリートってみんなこんな感じなのかしら…自信がすごいというか、他人に厳しいと言うか…」と思いつつ、その人と結婚したこのマンガの主人公の一人、妻の『彩』。
少々どんくさいところはあるが、気は優しい。だけど正直、俺が養ってやらないと何もできないやつ。そんな妻と娘に見送られて仕事に出る俺。いい気分だ。
俺は十分な金を稼いで家族を支えている。以前、出勤時に彩が見送りに来なかった時は、1週間くらい無視してみせて、家長という存在をわからせてやった、このマンガのメイン主人公で夫の『翔』。
『俺の人生勝ち組』そう思っていた翔が家に帰ると、妻の彩も娘の柚もいなくなっていた。「おい、どういうことだ」とメッセージを送るも、返ってきた返事は「柚は元気にしています。しばらく会いません」だけで、その後、既読もつかない…。
強く言ってもダメ、下手に出たメッセージでもダメで、ドッキリだと思いたくなったり、荒れた飲み方をしたりするほどになったときに、以前の部署の上司が「どうした?」と飲みに連れて行ってくれます。
飲みながら妻子に出ていかれた状態だということを話すと、なんとその上司も過去に同じ経験が。そして、離婚して子どもにも会えない状態となった今になって反省しているとのこと。「俺を反面教師にして、奥さんに謝ってみてもいいんじゃない?」そんなアドバイスをもらう翔ですが…。
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ちょこっとネタバレ感想
以前の部署の上司に相談した時点で翔は、
と、不安はあるけれども自分に非はないと思ってるんですね。
何が夫を変えさせるきっかけになったのか?
そこで、ネットで似たような人を検索していたら、DV加害者のための変容支援コミュニティに行き当たります。胡散臭いと感じつつ、自分は加害者というよりむしろ被害者だとも感じつつ、でも現状を打開する方法が他に見当たらないから参加してみるんだけど…。
そのコミュニティに参加しても、正直何が『加害』なのかわからない翔。
と、コミュニティに参加している人たちの反省のどこが加害なのかわからず、「そんなんじゃ夫婦なのに何も言えないじゃないか」って思ってしまいます。
けれど、コミュニティのワークの一つ『妻側の気持ちを想像して夫宛に手紙を書く』というのをやってみたら、加害についてはわからないものの、以前の妻はよく笑っていたことを思い出して変容しようと努力を始めました。
このマンガのいいところは、ここで「努力が実って、いい夫婦になりました」じゃないところです。それじゃちょっと夢物語ですもんね。
努力を始めたけれど、なかなかうまくいかなくてイライラする翔の様子がうまく描かれていて、とてもリアリティを感じます。
これ、翔がネットで見たことや本で読んだことをやってみよう、チャレンジしてみようって思っただけだったらうまくいかなかったと思うんですよね。
コミュニティの存在がすごく大きい。イライラしたときに抑えた気持ちって、吐き出さないといつか爆発しちゃいますもんね。コミュニティで「こんなふうにイライラしちゃった」って話せて、我慢できたことを褒めてもらえるからできたことだと思います。
冒頭でも書いたんですが、これがまさに『いろんな条件がうまく重なり合わないと』の一番大きなことです。そういうコミュニティの存在を知ることができ、参加してみた状態であること。そうじゃないと、多分、途中で爆発しちゃって「やっぱり夫は変われなかった」って離婚になるパターンだと思います。
変われるモラハラ夫と変われないモラハラ夫は何が違う?
あと、前回読んだマンガ『モラハラ婚 ~夫に洗脳されていた私~』とは違う展開だったけど、なんでなんだろうなぁ…とも思ったんですね。(モラハラ婚の感想はこちら)
モラハラ婚との違いは、夫側が「家族の理想はこうあるべき」と思っているか、「俺の理想どおりにしたい」と思っているかかなぁと思いました。今回の変われた夫『翔』の場合は前者で、前回の変われなかった夫『ケイジ』は後者だったんじゃないかと思います。
主体が家族なのか、自分だけなのか。
翔に関しては、形は間違えているけれど、「妻にとってもこれがいいはず」って思ってるんですよね、多分。ケイジのほうは、妻のことはどうでもよくて、自分がこうでありたいからそうさせてるだけって感じだと思います。
だから、翔はこのままできれば家族を継続させたいからがんばれるけど、ケイジは別に今の家族がいいんじゃなくて、自分の理想に合う相手がいいだけだから変わろうとも思わない…かなって思いました。
この夫婦の背景
「男たるもの、夫たるものこうあるべき」と翔がモラハラ気質になったのは、同じモラハラ気質の父親とそれに準ずる母親=毒親の影響がありました。
そして、彩がいつもパートナーの顔色ばかり伺うようになったのは、酒乱の父の顔色を伺い、その後離婚して女手ひとつで育ててくれた母の顔色を伺う生活をしていたから。
夫婦が最終的にお互いに向き合えたのは、その前に自分の親と向き合えたから。
翔は尊敬していた両親からの愛が支配であり暴力だったこと、自分の愛と思っていたものが同じく支配であり暴力だったと認めることができました。
彩は、子どものころの『父親から助けてほしかった気持ち』を母親にぶつけることができ、母側もそれを受け止め、母との関係性が顔色を伺うものではなくなり、対等なものになります。
マンガに差し込まれているコラムにも書かれていますが、モラハラ被害者って「加害者は変われる」と聞くと「私に何かできることがあるのはないか?」と自分の心の傷のケアよりも、加害者を支援しようとしてしまう人がいるそうです。
そのような優しさを持っている人こそ、被害が継続してしまう構造があるって。
これって、まさに彩が子どもの頃から両親の仲を「自分がどうにかしなきゃ」って思ってきた気遣いですよね…。
私は前回の感想にも書いたとおり、元夫はモラハラではなかったけれど、自分が一番じゃないと嫌なタイプで、そうじゃないと周りに八つ当たりする他責タイプだったんですね。
そして、私の母親が子どものように嫌なことは顔に出したり、自分を一番に構ってほしがったりするタイプで、さらに人の立場に立って物事を考えるのが苦手だったんですね。で、「長女だから」と我慢するように言われたり、母が困ったことを解決したりしてきたので、母の顔色を伺うように育ってきました。
このマンガの主人公同士や私の元夫婦のような組み合わせって、そのままだと支配が増長されるんだろうなって思いました。どちらかだけじゃなくて、どちらも変わる努力が必要なんですね。
理想的な解決って?
『一方的にケアされて許されるのは赤ちゃんだけ』
コミュニティで翔が言われたこの言葉に納得です。加害者であるモラハラ夫は、自分は家族をケアしないのに「自分はケアされて当然」って考えていて、いわば赤ちゃんと同じって言われたんですね。
人はケアされることで、人をケアするエネルギーが湧いてくる。
という言葉がコミュニティでよく使われるそうです。思いやりを持ち合い、自分の機嫌は自分で取るということかな、と思います。
彩も翔も変わって、「話し合いができる」夫婦になって、もし感情のはけ口が必要になったらコミュニティに聞いてもらう。そんな家族で過ごした20年後。彩と翔がアルバムを見ながら振り返る会話がジーンときます。
このマンガの原作は、実際にコミュニティを運営している元加害者の方ですが、作画は離婚してシングルマザーとなった方なんですね。その方のあとがきでも
「最後の3ページは万感の思いを込めました。これを読む人が少しでも希望を持つことができれば、こんなに嬉しいことはありません」
と書かれています。本当にそう思います。
最後の3ページは、離婚した私にはもうありえないシーンです。このマンガのような展開になれていたなら…離婚を最初に考えたあの時点でなら、それが理想だったと思います。でも、私の元夫はモラハラではなかったし、この変化は見込めなかったので、離婚に後悔は一切ありません。
でも、私じゃなくても変われる夫婦がいるなら、いい方向に変わってほしいな…って思います。実際はすごく難しいと思います。でも、モラハラに悩まされている方のいろんな条件が重なり合い、このマンガのようになりますように。
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